2023.11.28 upload
アフターコロナの歌舞伎町で起きた物語を錫木うりが快演!『車軸』公開中!!
映画監督志望で女優の錫木うりが、矢野聖人、水石亜飛夢と共演する映画『車軸』が公開中だ。セクシャルマイノリティの視点を織り込んだ数々の短歌を発表し、多くの賞を受賞した歌人・小説家である小佐野彈の同名小説 『車軸』(集英社文庫刊)を、『最後の命』や『パーフェクト・レボリューション』そして『桜色の風が咲く』で知られる松本准平監督が映画化した本作。錫木が演じた真っ直ぐな女子、真奈美はどんな役だったのか? 詳しくインタビューできたのでご紹介する。
ーーお名前は芸名ですか? 由来は?
知り合いの漫画家さんにつけてもらいました。由来を言うとすごく長くなるので(笑)。簡単に言うと、ニックネームからちょっともじって“うり”になりました。
ーー今回の作品はどのような形で出演することになったんでしょうか?
オーディションでした。最初に原作を読んだ時、”車輪と車輪と車軸”という構図に対して一部に感情移入するのではなく、3人に感情移入してしまって、私はそんな風に台本を読むことがあまりなかったので面白い感覚でした。自分と3人の育った環境やバックボーンは程遠いのですが、それでも共感できるっていうことは「絶対に演じた方がいい!」という気持ちになって「この役、演じたい」と強く思いました。
ーーオーディションはいかがでしたか?
今まで経験したことのない少し変わった形のオーディションでした。台本を読むのではなく、松本准平監督が用意した課題・メソッドを実行するというオーディションです。例えば、エンプティ・チェアという椅子があってその椅子に真奈美が座っていると仮定して、ストップがかかるまで延々と錫木うりとして自己紹介をするというもの。手応えもよくわからず、「良くなかったかも。落ちるんじゃないかな」という感覚があったのを覚えています。ですが、合格だったので驚きました。
ーー決まった時の率直なお気持ちは?
台本を読んでお芝居を見てもらった訳ではなかったですし落ちると思っていたので、どういうところが決め手だったんだろう? と思ったのが率直な感想でした。ハテナ?な感じだったのを覚えています。
ーー監督に合格の理由は聞かれましたか?
「素直だったから」みたいなことは言われました。素直らしいです(笑)。
ーー真奈美役を演じるにあたって、役作りなどされましたか?
劇中で幼少の思い出が出てくるんですけど、基本的には両親から抑圧されて厳しく育てられたというところがひとつのキーワードでしたし、そういう部分も深く書いてあるので原作がヒントにもなりました。そこからピックアップをして、現場に入る前に真奈美のプロフィールを書いて、ある程度自分が「どのように成長してきたか」「どのような環境で育ってきたか」というのを考えて臨みました。監督とは答え合わせをすることもありましたが、基本的には少し拡張させる作業のようでした。
ーー撮影の時に印象に残っていることはありましたか?
オーディションの時にやったエンプティ・チェアや監督オリジナルのメソッドが、リハーサルや本番前にもありました。監督が私の精神状態を見て、その時に適切なメソッドを差し出してくれて、それを2、3分やって私の感情を整える… というものです。監督には私のことが全部バレているのかもしれないですね(笑)。もっと集中が欲しい時やもっと感情を膨らませてほしい時に、それに必要なメソッドを適切に提示してくれました。今までにない現場の感覚だったので面白かったです。監督はシーンが始まる前に相手役と3分間見つめあうだけの時間を用意してくれる。不思議なことに心が整うんですよ。どのリピテーションを選ぶかという監督の嗅覚がすごく鋭くて。でも、私がそれに対して素直に順応できたというのも相性として何かあったのかなと思います。
ーー撮影されていた神社は花園神社ですか? すごく寒そうでしたが、撮影はいつ頃だったんですか?
花園神社です。ずっと寒かった(笑)。撮影は2021年の年末から始まって、年をまたいで1月2月くらいまででした。
ーー岩手は雪が降っていましたね。本物の雪ですよね?
降ってましたね〜。本物の雪です。実家の周りは降ってなかったです。
ーー実家のシーンも2回あったのは何だったのかと思いました。
1回目のシーンは、親にはこういう扱いをされたいという真奈美の願望です。突き放してほしかったのに優しくされてしまったっていう感情で飛び出していくんです。
ーー階段も落ちてましたね。
私じゃないですけど、落ちてました(笑)。階段から落ちるシーンはスタントの方です。私は階段の上の方にクッションを置いてもらってそこにダイブするだけ。スタントの方が落ちて、落ちた後の状態から起き上がるというものです。私も初めて見ました。
ーー3人の絡みのシーンについて。撮影時の心境はいかがでしたか?
以前別の作品でベッドシーンを経験したことがあるのですが、今回は3人でしたし、私が矢野聖人さん(潤役)と水石亜飛夢さん(聖也役)に対して絶大なる信頼感があったので、一人の時よりはリラックスしてできた気がします。心の準備がもっと必要かと思っていたのですが、他のシーンとあまり変わらず。というのも、メイクさんや周りのスタッフさんが整えてくれて、環境からいい影響を受けることができたので、とにかくお芝居をすることに徹底できました。真奈美としては緊張と興奮とで心がエキサイトしているシーンなので「仕上がりが楽しみだな〜」っていう気持ちが大きかったです。
ーー役柄的な見どころを教えてください。
真奈美は飄々としていて感情を表に出すタイプでもなくとにかく地味… という風に表面的には見えるんですけど、心の中はすごくまっすぐで興味があるものに対して貪欲で、とにかく常に進化している人物です。淡々と、でも興味があればすぐ行動する、そこがかっこいいなって思います。そういう潔さや突き進み方が真奈美の見どころじゃないかなと思います。
ーー映画全体的の見どころは? 心の準備は必要でしょうか?
心の準備は何もしなくていいと思います。“歌舞伎町で生きている”っていう物語って無数にあると思うんです。空から望遠鏡で歌舞伎町を覗いてたまたま映った人たちで織りなすドキュメンタリーみたいな感覚の映画だと思うんですね。その中に“車輪と車輪と車軸”という構図があるんですけど、3人とも人間なので個性を持っている。だからこそ、いつの間にか個性が出てきて同じように回らなくなって車輪の回り方に違いが出てくる。抽象的なんですけど、それが『車軸』の大きな展開の構図かなと思います。他には、“偽物と本物”というキーワードが出てくるんですけど、元々農家だった両親を根っからのお金持ちではなく成金という感覚で見ていて、“偽物”のお金持ちの自分の実家に対して違和感を持っている。そこで育った自分もありつつ、本物とは? と模索しながらも家のお金をとにかく使い切りたくて散在します。正直超うらやましいですが(笑)。
ーー今後の目標や野望があったら教えて下さい。
私がお芝居をやろうと思ったきっかけは「映画を作りたい」っていうところからだったので、そろそろ自分が監督となり映画を作りたい気持ちになってきました。物語を書いて、ディレクションもして、等々、ということにうずうずしてきた感じです。まだ予定ですが、自分の心の態勢が「映画を作っていこう」と変わってきたのだと思ってます。真奈美のように、好きなことに貪欲に。映画も作りたいですし、自分の興味があることに対しては常に貪欲になっていたい。それで常にアップデートしていったら、自分の理想とする野望に近づくと思います。
ーーありがとうございました。
あらすじ
地方の裕福な家庭で育った女子大生「真奈美」は、資産家でゲイの「潤」に連れられて歌舞伎町のホストクラブを体験する。
二人は互いに同じ渇望を抱えている事を知り、加速度的に惹かれあってゆく。
「ねえ、聖也と、あんたとあたしの3人でやってみない…」お気に入りのホスト「聖也」を通じて繋がる事を試みる。
自らの渇きを埋めるために、盲信的に突き進んでいく真奈美。
一方で、心を裸にする事をためらう潤は、このままでは、真奈美に置いて行かれてしまうかもしれない焦りで憔悴していく…
新宿・歌舞伎町を舞台に紡がれる、暴力的なほど切ない“愛の物語”。
☆映画『車軸』 絶賛公開中
矢野聖人 錫木うり 水石亜飛夢
ほのかりん 木ノ本嶺浩 五頭岳夫 佐藤峻輔 吉沢明歩 石原理衣
TIDA 加藤亮佑
/ リリー・フランキー / 筒井真理子 奥田瑛二
原作 小佐野彈『車軸』(集英社文庫刊) 監督・脚本 松本准平
エグゼクティブ・プロデューサー 佐藤茂薫 大好 誠 松本准平
プロデューサー 鷲頭政充 アソシエイトプロデューサー 嶋崎英郎 小玉慶太 キャスティングプロデューサー 石野美佳
撮影監督 長野泰隆(J.S.C.) 音楽 小野川浩幸 サウンドデザイナー 紫藤佑弥 音楽プロデューサー 大川正義
録音 百瀬賢一 美術 竹内秀和 茂木大樹 編集 武田晃
スタイリスト 本多由佳 ヘアメイク 松田蓉子 持道具 樋口万里子 制作担当 一戸浩介 AP 鈴木琢也
VFX Roy Costantin 舞台照明 三浦大輔
舞台台本 ジョルジュ・バタイユ 中条省平 訳「マダム・エドワルダ/目玉の話」(光文社古典新訳文庫)
企画 郷遼太郎 ニエポカラノフ 制作 ギアズ 配給 CHIPANGU/エレファントハウス
特別協賛 AIR GROUP 製作 ニエポカラノフ ギアズ クオラス 集英社
2023/日本/日本語/1:1.33 一部1:1.85/120min/5.1ch
(C)「車軸」製作委員会 (C)小佐野彈
公式サイト https://shajiku-movie.com/
Twitter(X) https://twitter.com/Shajiku_1117
☆錫木うり(すずき・うり)
1996年東京都生まれ。主な出演作に映画『めためた』(2023/鈴木宏侑監督)、『カオルの葬式』(2023/湯浅典子監督)『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』(2023/内田英治監督・片山慎三監督)、『エッシャー通りの赤いポスト』(2021/園子温監督)、『衝動』(2021/土井笑生監督)、ドラマ『サワコ〜それは果てなき復讐』2022)、YouTubeドラマ「東京彼女」9月号など。 本作には大々的なオーディションを通して選ばれた。出演待機作も控えており、今後の活躍が期待される。
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インタビュー マンボウ北川
写真・文 記者J