2025.12.18 upload

SHARE:

藤井武美が見つめた孤独とユーモア。太田隆文監督のリアルを“生き直す”映画に

脳梗塞――言葉としては聞いたことがあっても、その「日常」を想像できる人は多くない。映画『もしも脳梗塞になったなら』は、17年間休むことなく映画を撮り続けてきた太田隆文監督が、自身の発症と闘病経験をもとに描いた実話の物語だ。重くなりがちな題材でありながら、この作品が選んだのは、悲劇一辺倒ではない語り口。孤独や不安、どうしようもなさの中に、ふっと差し込まれるユーモアと人の温度が、観る側の心をほどいていく。

そんな作品で重要な役どころを担っているのが、女優・藤井武美だ。2011年、ドラマ『高校生レストラン』でデビュー。以降、映画『桐島、部活やめるってよ』『悪の教典』など話題作に出演し、2014年には太田隆文監督作『向日葵の丘 1983年・夏』にも参加。さらに2018年には、約1万人規模のオーディションを勝ち抜き、日韓合作映画『風の色』でヒロインを務めるなど、着実にキャリアを積み重ねてきた。柔らかさの中に芯の強さを感じさせるその存在感は、本作でも静かに、しかし確かに物語を支えている。

主人公の妹・さくらとして作品世界に寄り添った藤井が、太田監督の現場で感じた空気、役に込めた距離感、そしてこの映画がそっと差し出すヒントについて語った。

 

 

ーー今回はどのようにして出演が決まりましたか。

太田隆文監督とは『向日葵の丘 1983年・夏』という作品で、10年ほど前にご一緒させていただきました。その時はオーディションだったのですが、それ以降の映画にもお声をかけていただけるようになって。タイミングが合わず出演できなかったこともあったのですが、今回またお声をかけていただけて、本当にありがたかったです。とても光栄でした。

ーーいつ頃、どちらで撮影でしたか?

1年前ですね。最後の映画のシーンは渋谷のユーロライブで、他は埼玉県の吉川市などで撮影しました。窪塚俊介さんが演じた主人公が住んでいる家は、実際に太田監督が住んでいるお家なんですよ。

ーー実際のアパートで撮ってるんだ。脳梗塞から住んでる街まで? そこまで実話なんですか?

全部、実話です。

ーー「脳梗塞になったんだ」という話は大変だとは思うんですけど、バタッと倒れてしまうようなイメージがありました。

脳梗塞って、どういう発症の仕方をするのか、どういう病気なのか、最初は私も詳しく知らなかったんです。でも、目が見えなくなったり、喋れなくなったり、そういう発症の仕方もあるんだというのは、すごく勉強になりました。

ーー監督さんは、今も半分見えていないということなんですね?

そうです。少し喋りづらかったり、物事を覚えづらかったり、長い文章が2~3行しか読めなかったりすることもあるそうです。

ーー撮影の時の雰囲気はどうでしたか?

監督の体調が万全ではなかったので、クランクインしてからどういう感じで進むのかな、という不安はありました。ただ『向日葵の丘 1983年・夏』と同じスタッフさんが多かったので、私自身はすごく嬉しかったですし、皆さんがどうサポートしながら撮影されているのかは意識しながら現場に臨みました。

実際、監督は喋りづらかったり、歩きづらかったりと大変なことも多かったと思うんですけど、太田監督のユーモアさというか、現場の空気の作り方は相変わらずで。すごく楽しく、スムーズに撮影が進んでいた印象があります。

ーー特に印象に残っているエピソードや、共演者の方はいますか?

田中美里さんと藤田朋子さんとは、『向日葵の丘 1983年・夏』でもご一緒させていただきました。その作品では田中さんの高校生時代を演じさせていただいていたので、再会できたことがより嬉しかったです。

久しぶりに現場でお会いしても、10年経っても変わらない優しいオーラがすごく印象的でした。『向日葵の丘 1983年・夏』では、最後のシーンでご一緒だったり、私の撮影中も見に来てくださって、たくさんお話しさせていただきました。

ーー藤井さんが演じた役の見どころを教えてください。

兄とは真逆の生き方をしてきたんだろうな、というのは自分の中で考えていました。いわゆる“よくある主婦像”というか、結婚して安定した生活を送っている妹で、兄はお金や現実的なことにはあまり興味がなく、夢を追いかけている。その姿に対して「なんでそんなに簡単に物事を考えてるんだろう」と、イライラしてしまう部分もたくさんあると思うんです。

でも、妹なりの兄への家族愛はきっとあって。母親や父親とうまくいっていなかったからこそ、「私がパイプにならなきゃ」という意識が、さくらの中にはあったのかなと思っています。どうしようもないけど、結局一緒にいた、という関係性ですよね。この作品の中でも、さくらという存在はすごく大事なんじゃないかなと感じていて、家族としての支え方や立ち位置は常に意識して演じていました。

ーーちなみに、実際の監督の妹さんにはお会いになったんですか?

お会いしたことはないんですけど、写真は見せていただきました。でも、それ以外は「武美ちゃんのままでいいよ。そんなに意識しなくて大丈夫だよ」と言っていただいて。なので無理に寄せるようなことはしなかったです。

ーー映画全体の見どころを教えてください。

タイトルだけを見ると、脳梗塞という病気を扱っている分、重い作品に感じられるかもしれないんですけど、実際には「脳梗塞になったから、これからどう生きていくか」という、とても前向きな作品になっていると、試写を観て強く感じました。

太田監督ご自身が経験されたことだからこそ、ここまでポップに描けているんじゃないかなと思います。身近に病気をされた方や、ご家族にそういう方がいる場合に、どう支えればいいのか、そのヒントになる作品になっていたら嬉しいです。

ーー確かに、最初に聞いた時は大変な病気なんだろうなという印象がありましたが、実際に起きた事実に基づいて描かれていることで、周囲のサポートの仕方などもすごく参考になりました。

監督が感じた孤独だけでなく、「人は一人では生きていけないんだな」ということを、改めて強く感じました。

ーー試写を観た時の、最初の感想はどんなものでしたか?

音楽もポップで、「太田監督らしい」という一言に尽きましたね。あとは、自分の声がずっとナレーションで流れているのが慣れていなくて、普通のお芝居以上に緊張しながら観ていました(笑)。

声のお仕事を、こんなにたくさんやらせていただいたのは初めてだったので、そこも“新しい藤井武美”として、少し注目していただけたら嬉しいなと思います。

ーー年末ということで、今年1年を振り返っての感想はありますか?

もともと“エー・チーム”という事務所に所属していたんですが、2年前に退所してフリーになって。本当に大変なこともたくさんありました。

2024年は、いろんな人と会って「藤井武美」を知ってもらったり、「今こういうことをしていて、こういうことがしたいんです」と伝えたり、人との繋がりをすごく大切にした1年でした。そして2025年は、それが少しずつ仕事に繋がってきた1年でもあって、自分でもワクワクしています。前向きになれる1年だったなと感じているので、来年はもっといろんな作品に携わって、今の「藤井武美」のお芝居を見てもらえるように頑張りたいです。

ーーお仕事以外では、何かありますか?

今年で31歳になるんですけど、やっぱり美味しいご飯と美味しいお酒が一番だなと感じています。それを楽しみに、日々頑張っています。

ーーお酒は何を飲まれるんですか?

なんでも飲みますけど、一周回って焼酎になりました。ハイボールとか炭酸が、ちょっときつくなってきて(笑)。最近は焼酎ですね。余裕ができたからこそ、そういう楽しみ方もできるようになったのかなと思います。

ーーひとり飲みもされるんですか? どこに行けば会えますか?

内緒ですよ(笑)。そんなの言わないです(笑)。中央線が大好きなので、そのあたりにいると思います(爆笑)。

ーー来年の抱負を教えてください。

少し間が空いてしまった時期もあったので、昔の「藤井武美」のお芝居ではなく、今出せる自分のお芝居を、たくさんの方に観ていただきたいです。そして関係者の皆さんにも、「今の武美、おもろいやん」と言ってもらえるような役者になれるよう、来年も引き続き頑張りたいなと思っています。

ーーはい、しっかり受け取りました。最後に、野望も教えてください。

目の前にある、いただいたものを、どれだけ自信を持って受け取って、お芝居ができるかにかかっていると思っています。そこを一つ一つ大切にしながら、これからも頑張っていきたいです。

ーーありがとうございました。

 

 

▼あらすじ
1人暮らしの映画監督・大滝隆太郎は突然、脳梗塞を発症。目がよく見えない。言葉もうまく出ない。心臓機能が20%まで低下、夏の猛暑で外出は危険。友人に電話しても「お前が病気?笑わせるなよー」と言われ、SNSに闘病状況を書いても、的外れな助言や誹謗中傷ばかり。「俺はこのまま孤独死?」と追い込まれるが、意外な人たちから救いの手が? 本人には悲劇、周りの人たちには喜劇?病気と医療を笑いと涙で描く社会派現代劇。

▼予告

 

▼キャスト・スタッフ
窪塚俊介 藤井武美

水津亜子 久場寿幸 冨田佳輔 並樹史朗 酒井康行 嵯峨崇司 仁科貴 安部智凛

奈佐健臣 川淳平 杉山久美子 田辺愛美 飯島大介 三輪和音 新宮里奈 宮本弘佑 鯛中蓮都

藤田朋子 田中美里 佐野史郎

監督・脚本:太田隆文

配給:渋谷プロダクション

2025/日本語/ステレオ/アメリカンビスタ/102min

©シンクアンドウィル 青空映画舎

 

▼URL
オフィシャルサイト https://moshimo-noukousoku.com/
オフィシャルX https://x.com/moshimo2025
オフィシャルFaceBook https://www.facebook.com/noukousoku2025

 

▼公開日
2025年12月20日(土)より 新宿K’s cinema ほかにて全国順次公開!

 

 

☆藤井武美
1994年12月5日生まれ、東京都出身。
2011年、ドラマ「高校生レストラン」で俳優デビュー。2016年、『風の色』(クァク・ジェヨン監督)のヒロインに抜擢される。主な出演作に、『桐島、部活やめるってよ』(12/吉田大八監督)、『COYOTE』(21/真利子哲也監督)がある。2025年、主演した短編映画『エンパシーの岸辺』がレインダンス映画祭に正式出品。

Instagram https://www.instagram.com/takemi_fujii/

 

 

インタビュー マンボウ北川
撮影・文 記者J

アバター画像

記者J

地球上すべての美しい女神を求め東奔西走。今でいう推し活をむかーしから実践していた漢

YOUTUBE CHANNEL