2025.07.28 upload

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「これは過去の自分に宛てたラブレター」石川瑠華が“揺らぎの青春”に向き合った日──映画『水の中で深呼吸』インタビュー

その役と出会ったとき、心の奥にそっとしまっていた“あの頃”がふいに蘇った。
映画『水の中で深呼吸』で高校生・朝比奈葵を演じたのは、女優・石川瑠華。
LGBTQ+の「Q」、つまり「クエスチョン(自分が何者かわからない)」をテーマにしたこの物語は、彼女自身が抱えてきた青春の揺らぎとも深く重なっていたという。
「これは過去の自分に届けたい作品」と語る彼女が、その想いを胸に挑んだのは、まるで過去のわたしに宛てたラブレターのような役だった──。

ーー今回の役はどうやって決まったのでしょうか?

オーディションがあって、私はLGBTQ+の「Q」をテーマにしていることにすごく興味を惹かれて、参加したんです。
役が決まったのは3年くらい前なんですけど、撮影が1年延期になって。2023年に撮影して、本来は2024年に公開予定だったけど、さらに1年延期して、ようやく今年公開できました。

ーー基本的に高校1年生の役だと思うんですけど、オーディションを受ける時には、その辺のことは全く気になさらず?

いや、もちろん気にしました。
制服を着たり、できる準備は全部したうえで臨んで、それでも高校生に見えないって判断されたら、それはそれ。もうこの歳になってしまったので、そう思って割り切ってますね。制服を着てオーディションには参加しました。

ーー特にこの役をやりたいと思った理由や動機は?

なんだか“過去の自分”を見てるみたいだったんです。
高校生の時に、私自身も「この気持ちは何なんだろう?」って揺れる感情を抱いたことがあって。でも当時はその感情に向き合うことをやめて、蓋をして、なかったことにして、時間が流れて……気づいたら忘れていた。

その時にこの作品のオーディションを知って、
「女の子を好きになる感情」「自分が何者か分からない状態」
まさに主人公・朝比奈葵の紹介文を読んで、強く共鳴したんです。
「あ、私、この子を演じてみたい」って思いました。
それで、オーディションを受けようって決めました。
この作品は、自分にとって過去の自分に手紙を送るような感覚がありました。

ーー逆に監督さん側から、選んだ理由や決め手について聞いたりしましたか?

えー、なんだったんだろう(笑)
「魅力的だったから」とか言っておきますね。…ウソです(笑)。
実際は、特に聞いてないんです。

ーーちなみに、水泳の経験はもともとあったんですか?

水泳は好きで、小学校のときに習ってたので、泳ぐこと自体は大丈夫でした。
この作品が水泳を軸にしていることもあって、それはちょっと自信ありましたね。でも、オーディション参加にあたって「水泳ができないとダメ」ってことではなかったです。

ーー実際に劇中でも泳いでらっしゃる?

はい、ちゃんと泳いでます。
水泳部に所属してたわけじゃないんですけど、市民プールでよく泳いだりしてたので、水の中に入ること自体はむしろ好きです。

ーー撮影に入るまでに、役づくりはどんなことを?

まず脚本を読んで、葵の中にある“言葉にならない感情”をどう掴むかを考えました。
セリフよりも、間とか、視線とか、呼吸の仕方とか。
たとえば泳ぐシーンでもそうですが、水の中は何も話さなくていい。映画を観てあんなに暗い中で表情がしっかり映っていたことにびっくりしましたが、表情だって気にする必要はない。そういう“静かな感情の音”みたいなのがたくさん聞こえてくるような映画だなと思いました。

実は監督とも「どれだけセリフを減らせるか」と話をしてました。
できるだけ“空気”で伝えるようにしよう、って。
だから役づくりも、何かを作り込むというより、削ぎ落としていく感覚のほうが近かったかもしれません。

ーー削ぎ落とす、というのはどういう意味で?

“作ろうとしないこと”ですね。
何者かになろうとせずに、ただそこにいる。
それって実はすごく勇気が要るし、簡単じゃない。
でも、葵は「自分が何者か分からない」状態だからこそ、その揺らぎごと肯定してあげたくて。

だから私はこの役に、明確な“答え”を用意しませんでした。
演じながら、彼女と一緒に悩んで、一緒に迷っていこうと思いました。

ーー現場で印象的だった出来事は?

プールのシーンは、やっぱり印象的でしたね。
水の中って、音も言葉もないから、逆に心の声が聞こえてくるような感覚になるんです。
あの静けさが、まさに葵の世界だなって思いました。姿や言葉ではみえない葵の世界。

現場で、すごく丁寧に空気を作れたのも大きかったです。
繊細な感情にちゃんと向き合える時間が流れてました。

キャストのみんなとお芝居をすることが多い中での一人のシーンでもあったので、急に我に返った感じもありました(笑)。
現場から宿まで遠く、都合上みんなが待っていてくれたのか帰れなかったのか覚えていないのですが、プールの横の控え室にみんなも残っていて。パッといいシーン作らなくてはというプレッシャーもあったのですが、みんなめちゃくちゃ遊んでいて楽しそうでした(笑)。
たまに白湯とか持ってきてくれたり温めてくれたりして癒されました。

ーー完成した作品をご覧になって、どう感じましたか?

「ああ、ちゃんと葵として存在できてたな」と思いました。
正直、答えのない役だったし、見る人によって解釈が全然変わるだろうなって不安もあったんですけど…。
でも、完成した映像を観たときに、自分の中で“届いてる感覚”があって。
それが一番うれしかったですね。

ーー観てくれる人に、どんな風に届いてほしいですか?

「わたしって、誰なんだろう?」
そんな風にモヤモヤしている人に、そっと寄り添える映画になったらうれしいです。
答えを出すためじゃなくて、問い続けることって、実はすごく尊くて強いことだと思うので。
答えを強いる人が少なくなればいいなと思います。

いま“揺れてる最中”の誰かが、この映画を観て、ちょっとでも呼吸がしやすくなったら。
それだけで、私はこの作品に出た意味があると思ってます。

ーー撮影以外の時間も、まるで夏休みみたいに仲間と過ごしたということですが、周囲にLGBTQ+の方がいらっしゃることも?

はい、います。新宿二丁目などに行くと自然と出会いますし、特別な存在として区切るのではなくて、日常の中で当たり前に関わっている。そんな感覚に近いかもしれません。

ーー最後に、今ハマっていることや近況があれば教えてください!

最近は、キャッチボールと回転寿司にハマってます(笑)。
あと、実は私が監督を務めた短編映画『冬の夢』が、代官山のシアターギルドで上映されています。(※TrenVe取材記事:https://trenve.com/actress/27881

ーー今後も監督業は続けていきたいと?

はい、短編作品はつくることにとても興味があるので、これからも機会があれば撮っていきたいと思っています。
短編映画という形は、今の私にとって長編よりも足取りが軽く、20~30分に凝縮されている世界は身近に感じられて惹かれるんですよね。

ーーありがとうございました!

 

▼あらすじ
水泳部に所属する、高校1 年生の葵(石川瑠華)。
理不尽な上級生からの嫌がらせに耐えながら、黙々と練習に打ち込む日々を送っている。
そんな葵には、誰にも言えない、もうひとつの悩みがあった。
同級生の水泳部員・日菜(中島瑠菜)に惹かれる気持ちを持て余していたのだ。
この胸の高鳴りは、友情なのか、それとも──?
ある日、日菜への嫌がらせに耐えかねた葵は、ついに上級生たちに歯向かってしまう。
その結果、葵たち1 年生は、上級生と水泳でリレー勝負をすることに。
だが、実力不足の1 年チームは、圧倒的に不利な状況。
葵は同級生から批判され、日菜のことも困らせてしまった。
後悔する葵を、幼馴染で同じ水泳部の昌樹(八条院蔵人)が、そっと励ます。
その存在に救われる一方で、葵は昌樹に対しても友情以上の感情が芽生え始めていることに気づき、戸惑いを隠せない。
日菜と昌樹の間で、揺れ動く想い。
恋とは何か。友情とは何か。自分は何者なのか。
抑えていた感情は、昌樹のある行動をきっかけに、爆発する。
傷ついた友人、仲間、そして自分自身。
だけど、逃げたくない。
リレーの練習を重ねながら、葵は少しずつ自分の心と向き合い始める。
泳ぎ続けたその先で、葵が見つけた答えとは──

▼予告

 

▼キャスト・スタッフ
石川瑠華
中島瑠菜、倉田萌衣、佐々木悠華、松宮 倫、八条院蔵人、しゅはま はるみ 他

監督:安井祥二/脚本:上原三由樹、平井紗夜子

 

■オフィシャルサイト https://mizunonaka-movie.jp/
■X https://x.com/mizunonaka2025
■Instagram https://www.instagram.com/mizunonaka_movie

 

 

 

☆石川瑠華
公式プロフィール https://www.sma.co.jp/s/sma/artist/561#/news/0
X https://x.com/ishikawaruka322
Instagram https://www.instagram.com/___rukaishikawa/

 

 

 

 

インタビュー マンボウ北川
撮影・文 記者J

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記者J

地球上すべての美しい女神を求め東奔西走。今でいう推し活をむかーしから実践していた漢

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