2026.04.23 upload
黒谷友香「演じたことのない役だった」――謎だらけの物語で踏み込んだ“新しい領域”
数々の映画やドラマで確かな存在感を放ち続けてきた黒谷友香。柔らかさと芯の強さを併せ持つその佇まいは、作品ごとに異なる顔を見せながらも、どこか観る者の記憶に残り続ける。
そんな彼女が新たに挑んだのが、映画『月の犬』。監督・脚本・編集を手がけたのは横井健司。独自の世界観と緻密な構成で観る者を引き込む横井の手腕が、本作でも存分に発揮されている。長野と東京を舞台に、人間の奥底に潜む感情や関係性を静かに、しかし確実に炙り出していく本作は、一見すると掴みどころのない“謎”を孕みながら、観終わった後にじわじわと輪郭を帯びていく不思議な余韻を残す。
黒谷が演じるのは、二人の男の間にいながらも、決してどちらにも寄ることなく、自らの意志で立ち続ける女性・沙織。クラブのママとしての顔と、別の場所で見せる表情、その振れ幅の中で浮かび上がる“生きる覚悟”は、衣装や所作の細部にまで宿っている。
「演じたことのない役だった」と語る黒谷が、この“謎だらけ”の物語の中で掴んだものとは何か。役作りの裏側から、共演者との再会、そして作品に込められた余韻まで――その言葉を追った。
ーー今回はどのような流れで出演を?
以前お仕事をご一緒させていただいた方にご指名頂きお声がけいただきました。台本を読んでいたら今まで演じたことがない役だったので、衣装合わせの時に監督とプロデューサーさんとお会いしまして、どういう役なのか、どういうことを伝えたい映画か、どういう思いで、どういうふうに始まったかっていうお話を伺い、それで役作りを始めました。
ーー私はほとんど白紙の状態で拝見して、謎だなと(汗)。
なかなかちょっとすごいテーマなので、ビックリされましたか?
ーーちなみに、いつ頃、どの辺での撮影でしたか?
長野と東京です。撮影があったのは一昨年の夏でした。
ーー萩原聖人さんがたどり着いた先は、最初はホントにすごい田舎でしたね。
電車に誰も乗ってないような。不思議。どこなんだろうって。
最後の決闘のシーンは、使ってないシャッター街のビルが長野にあって、そこで2日ぐらいかかってロケされたとお伺いしてます。
ーー謎とか驚きとか衝撃とかが色々(笑)。
お借りしたクラブも長野でした。
ーーでもあんな田舎の駅のそばにあるはずはないと思って(笑)。
意外とロケでお借りした周りも普通のお宅があったりしてたんですけど、その街が“映画を応援しよう!”とご協力くださっていて、クラブのエキストラさんもその街の方でした。
ーー共演者の方との思い出は?
萩原聖人さん(東島役)とは、この作品の撮影時期に近いタイミングでも共演させていただいていました。深水元基さん(南役)は、20代の頃にご一緒して以来で、今回が久しぶりの再会でした。お二人とも過去に共演はあったんですが、作品ごとにテイストも違いますし、関わり方もまったく異なっていて。当然ながら、本作ではその当時とは全然違う印象もあって、新鮮な感覚でした。
最初は、どこから役を掴んでいけばいいんだろう、という世界観でもあったんですけど、衣装合わせの日にかなり細かく話をして。
衣装についても、最初はもっときらびやかなものを想定していたんですが、ママとしてはもう少しダークというか、落ち着いたトーンの方がいいんじゃないか、という話になって、黒を基調にしていきました。
南の事務所に行くシーンでは、パンツに柔らかいロングカーディガンを合わせて、ママの時は髪を下ろしているんですけど、事務所では結ぶなど、見た目でも差をつけています。
そして、東島と南がああいう決着を迎える中で、沙織のラストの衣装の色などの変化の流れも、打ち合わせの段階でしっかり話し合っていく中で、「こういう人物なんだ」と少しずつ掴んでいった感覚でした。
ーー今回の萩原さんって、何か特に印象的なこととかあったりしましたか?
萩原さんとは、この作品の撮影に入る少し前にもご一緒していたんです。だからこそ、現場で再会したときは「お久しぶりです」と言葉を交わしつつも、まったく違う佇まいでいらっしゃるのがすごく印象的で。
最初にお会いしたのは、クラブのロケの日だったと思うんですけど、ヘアスタイルや衣装も相まって、空気感ががらっと変わっていらっしゃいました。
劇中では、一見すると普通に働いているように見えるんですが、ぼったくりバーのシーンで、「30万も払えねえよ」と詰め寄る男性に対して、ふと裏の顔を見せる瞬間があって。そのやり取りがすごく印象に残っています。
撮影中も拝見していたんですけど、改めて試写で観たときに、その“すごみ”というか、やっぱり眼差しの強さが素晴らしかったです。
ーー深水さんとは本当に久しぶりで。
20代の頃に連続ドラマでご一緒して以来でした。久々の再会で、「懐かしいですね」と自然に言葉を交わせる距離感があって。以前は恋人同士の役を演じていたんですが、今回はまた違う関わり方ができて、「こういう再会の仕方も面白いですね」といった話もしていました。南の事務所のシーンでご一緒したんですが、当時とはまた違う空気感の中で向き合えたのが、とても印象的でした。
ーー人間関係や、衣装へのこだわりについて教えてください。
衣装合わせって、実はすごく重要な時間なんですよね。どういう服を着ている人なのか、どんな部屋に住んでいるのか――そういうことを話しながら人物像を立ち上げていけるので。そこでの会話ひとつひとつで、役の印象も変わってくるんですし、私にとっては“そこから始まる”感覚がありました。
今回の役は、2人の男性の間にいながらも、どちらかに寄るわけでも、ただ見守るだけでもない。あくまで自分は自分として独立していて、「私は私で生きていく」という強さをずっと持っている女性だと思っています。だからこそ、「なかったことにはできない」とはっきり言えるし、南に対してもすごく強い意志を感じました。それぞれが何かを背負いながら生きていく、その結末に向かっていくのも、ある意味で必然なんだろうなと理解した上で演じていました。
作品全体としては、“鍵を握る少年”の存在が大きくて、彼が一体どういう人物なのか――その謎が少しずつ解かれていく構造になっています。観る方にとっては、きっと想定外の展開だと思うんですよね。「そうなの?」と意表を突かれるような感覚というか。見終わったあとに、じわじわ考え続けてしまう。そんな余韻が残る作品になっていると思います。
ーー今後の野望とか・・・
野望ですか。野望って言うとなんかちょっと言葉が・・・。
でも、これからも1個1個作品と向き合っていきたいと思います。
ーー(記者J)クラブのママの衣装がセクシーで素晴らしかったです
クラブのママなんで(笑)。ありがとうございます。そういうご意見も嬉しいです。
衣装合わせの日に色々着てよかったって思います。
ーーありがとうございました。
▼予告
▼あらすじ
最愛の伴侶を病でなくした東島(萩原聖人)は、生きる気力を失い、極道の世界から離れ、知らない街に流れ着く。何気なく入ったバーで多額の請求をされても何も言わずに金を支払う東島に興味を持った沙織(黒谷友香)は、東島に仕事を任せるようになる。
一方、組織の一員である南(深水元基)は、繰り返される日常が耐えられずにいた。東島について沙織から報告を受けた南は、東島が景色を変えてくれることを期待し、東島に一人の少年・将吾(渋谷そらじ)の面倒を任せる。沙織の元、黙々と仕事をこなしてきた東島だが、将吾の秘密を知ったことをきっかけに、指示に背き、将吾を外に連れ出し…
▼キャスト・スタッフ
萩原聖人
渋谷そらじ 石田佳央 沖山翔也 大鷹明良 岡野一平 沖原一生
やべきょうすけ 中村映里子 大後寿々花
原日出子 寺島進
深水元基 黒谷友香
エグゼクティブプロデューサー 藤澤謙
キャスティングプロデューサー 山口正志 音楽 遠藤浩二 撮影監督 松本貴之 録音 西岡正巳 美術 石毛朗
スタイリスト 薮内勢也 ヘアメイク 駒水友紀 肌絵師 田中光司 アクションコーディネーター 出口正義
キャスティングスーパーバイザー 柿崎ゆうじ 助監督 安川徳寛 制作担当 大川奏耶
製作 T-REX FILM 配給 渋谷プロダクション
2025/シネスコ/5.1ch/101min
監督・脚本・編集 横井健司
♦4月24日(金)よりシネマート新宿ほかにて全国順次公開
▼URL
公式サイト https://tsukinoinu.com/
X https://x.com/tsukinoinu2026
Facebook https://www.facebook.com/tsukinoinu2026
☆黒谷友香(Kurotani Tomoka)
1975年12月11日生まれ、大阪府出身
1995年に映画『BOXER JOE』(阪本順治監督)で俳優デビュー。同年、地球ゴージャスの「瓶詰の地獄〜いつまでもたえることなくともだちでいよう〜」で舞台デビューし、2006年、『TANNKA 短歌』で映画初主演。近年では映画『ゴッドマザー 〜コシノアヤコの生涯 〜』などがある。東京と千葉の二拠点生活を25年以上続けており、BS11「黒谷友香、お庭つくります」で理想のお庭づくりに挑戦している
公式プロフィール https://www.spacecraft.co.jp/talent/tomoka-kurotani
Instagram https://www.instagram.com/tomoka_kurotani/
スタリスト:寳田マリ
ヘアメイク:藤原リカ(スリーピース)
インタビュー マンボウ北川
撮影・文 記者J