2023.09.07 upload

“静の主人公”を演じる松井玲奈「みどころが無いのがみどころ」

Actress

ORIGINAL ENTRY
View 12,000

女優活動で数々の映像作品に登場。また小説家としても才能を発揮している松井玲奈が主演する映画『緑のざわめき』が公開された。第18回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門に正式出品された、福岡、佐賀を舞台に、3人の異母姉妹が織りなす物語を描いた本作。新鋭・夏都愛未監督が、大江健三郎や中上健次の文學にインスパイアされ、葉脈と血の繋がり、ファミリーツリー、性と聖の繋がりをテーマに描くオリジナル作品。3人の異母姉妹に、元カレ、女子会メンバーらが交わり、物語は思いもよらない方向へと進んでいく。主人公を演じた松井は3姉妹の一番上の響子役としてどのような芝居を見せたのか?

ーーこの映画の主演はどのように決まりましたか?
オファーを頂いたら、夏都愛未監督が自分と同い年なので、同年代の人たちが頑張っているのも私自身すごく嬉しくて、一緒に作品を作ることができたらいいなと思いました。それと、脚本を読んで夏都監督自身が描きたい物語にとても力強さがあって、私も参加したいと思ったのがきっかけです。

ーー最初に脚本を読まれた時の印象を教えてください。
不思議な物語で、見る人によって全く感じ方が違う作品なんだろうなというのは思いました。監督がおっしゃっていたファミリーツリーというか、すべての人たちが一つの木から派生していて、この物語の中で三姉妹が同じ葉脈のしおりを持っているようにみんなどこかで繋がっているというお話をされてるのを聞いて、腑に落ちるところがありました。多くの言葉だったり分かりやすい表現で伝えないけれども、それでもお客さんに人と人との繋がりっていうものを伝えるこの作品が素敵だなと、改めて脚本を読んで思いました。

ーー演じられた小山田響子について。どのように役作りされましたか?
歩んできている人生が全く違うので、彼女の境遇や感情をわかろうとするのはすごく難しいなと思いました。でも、脚本の中から紐解いて友達の話を聞くみたいに寄り添って理解するということはできると思ったので、そんな気持ちで脚本と向き合って、現場に行って実際に2人の異母姉妹と対峙した時に感じた気持ちをそのまま表現するというアプローチをしました。

ーー撮影時に印象に残ってるシーンがあれば教えてください。
菜穂子(役:岡崎紗絵)と2人のシーンで、佐賀の家にいて彼女が忍び込んできて出会うというシーンがすごく印象的な場面です。最初は脚本通り、響子という人があんまり強く拒否反応を示さないつもりで役を作っていたし、監督もそのように想定をしていましたが、いざリハーサルをしてみるとやっぱりちょっと受け入れがたい部分が多かったんです。「それは杏奈ちゃん(役:倉島颯良)も知ってるの?」というセリフがあって。脚本だと姉妹だっていう事を知っているっていうのを言わなかったはずなんです。「うん」とも「いいえ」とも言わないっていう脚本だった気がするんですけど、でも、あえて菜穂子を傷つけたいというか、自分が傷つけられたからその反動で相手のことを傷つけたいという衝動が出てきてしまうというか…。だからあえて「はい」って言ったテイクを監督が採用したと思います。だからあのシーンは、菜穂子からの思いが強すぎて、それを受け止めきれない響子っていう縮図でした。最後に響子も冷たい感じになったのはとてもエキサイティングだったなと思いますね。

ーー倉島颯良さんとの共演はいかがでしたか?
本当に可愛らしい子で妹みたいな感じでした。年も実際離れているので可愛がってあげたくなるような、守りたくなるような、そういう雰囲気のコだなと思いました。お互いに本が好きっていう共通点があったので、面白い本を教えあったりしてました。

ーー撮影場所で印象に残っているところはありますか?
佐賀での撮影が多かったんですけど、武雄市の図書館がすごく綺麗で大きくて、撮影がない時間はよく図書館にいました。自分の著書も置いてあったので、それもすごく嬉しかったです。出した本は全部置いてあったと思います。かなり大きな図書館で、実際に映画の中にも出てきてる武雄市の有名な図書館です。

ーーロケ地で海の鳥居とかすごくインパクトあるように感じましたが、実際のロケに行った時の印象とかは?
鳥居の場所は不思議な感じがしましたね。割と福岡の中心地というか、大きい公園のちょっと脇にあって「あ、こういう場所があるんだ」というのと、そこの浜辺がすごく気持ち良かった印象はあります。

ーー意外にすんなりできたという佐賀弁について。
語尾とか音の上がり下がりとか、イントネーションが私の地元の言葉と似ているなって思いました。なので、録音していただいたテープを聴いて練習をしたんですけど、自然に口から出てくる感じがありました。それはきっと愛知県の三河弁と似ている部分が多いのかなって。もちろん現場で直して頂くこともありました。普通は方言を喋るときには音を間違えないようにという意識があるんですけど、今回全くそういうこともなくしゃべることができていたので、近しいものがあるのかなと思いました。

ーーじゃあ、今回はこれまでの中で一番方言としてはやりやすかった?
一番やりやすかったのは、NHKの朝ドラで地元の言葉で喋ったのが一番やりやすかったです。何のストレスもなかった。「この方言違います」って変えることも容易だったのですごく楽でした。

ーー逆に過去一難しかった方言はありましたか?
そこまで多くやっていないのですが、関西弁は難しいと思いました。舞台で関西弁をやった時が一番大変でしたね。凄い長台詞とかも全部関西弁のイントネーションでやらないといけないし、セリフも覚えなきゃいけないのと、関西弁のイントネーションで覚えなきゃいけなくて。気持ちがガッと上がってしまうとイントネーションが変わってしまうこともあったし、その舞台を大阪でやらなきゃいけないっていうのもすごい緊張感でした。

ーー夏都監督から演技指導などはありましたか?
もちろんディレクションはありました。でも夏都監督のリクエストが本当にやりやすいというか「もっと強く」みたいな抽象的な言葉ではなくてちゃんと理由を説明してくれるんですよね。「もっと響子の心の中を表現したいから嬉しさは抑えて」とか「もっと不安になって」とか。具体的な感情を先に伝えて頂けるので、自分がどこにフォーカスしていけばいいのか、監督がその場面で何を撮りたいのかっていうのが明確にわかってすごくありがたかったなと思います。どこか思い出せないぐらいそれぞれのシーンでたくさん指示があったなと思います。毎回撮る前にリハーサルというか、ディスカッションをしながらいろいろ試せました。

ーー松井さん的には、そのやり方はやりやすかったですか?
やりやすいですね。「強く」って言われても、どこの何を強くすればいいかわからないじゃないですか? その全体を強くしてほしいのか、それともある一つのセリフを力強く言って欲しいのかわからないから、だから夏都監督のやり方はすごくありがたかったです。

ーー松井さんの役的な見どころ、ポイントを教えて下さい。
どちらかというと見どころがないのがポイントです。それには理由があって、作品の主人公というといろんなタイプがあると思うんですけど、例えば『ONE PIECE』のルフィみたいに自分で進んで行って物語を動かすタイプと、響子みたいに周りで起きてることを受け止めていくことで物語が進んでいくというタイプがいて、響子は動かない、“静”の主人公なんですよね。なので、響子が何かをするっていうよりかは、周りにいっぱい見せ場があって、いろんなことが起きて、それを受け止めていくっていう役なので“私のこれを見てください”みたいなのはないんですよ。特に一回目の鑑賞では観ている方の驚きと響子の心情って結構リンクしてる部分が多いと思います。

ーー映画全体の見どころを教えてください。
映画全体の見どころとしては、今回かなり引きのショットが多かったのですが、監督が特に伝えたい部分は寄りのショットがあって、ここを見せたいんだなというのがとてもはっきりしていたと思います。引きだからこそ相手の表情がよく見えなかったりとかするんですよね。例えば、杏奈とおばさんが玄関で対峙しているシーンでは、おばさんが怒っているのはわかるけど、彼女の表情ってまったく見えないんですよね。そうなると、見る側は「どんな表情をしてるんだろう」って考える余白ができるので、その受け取り方は人それぞれ違うというのがこの作品の面白いところなんです。引いてるからこそ感じられるそれぞれの感情の機微というものに注目して見て貰いたいなと思ってます。

ーー今後の活動についてはどうですか?
お芝居をずっと続けていきたいなと思ってます。お芝居をやって、その中で本を書いたり小説を書いたりということをしているんですけど、活動の主軸はお芝居なので、これからもずっとお芝居を続けていきたいなと思ってます。

ーーありがとうございます。

 

■あらすじ

過去の痴漢被害のトラウマを抱えて生きてきた響子(松井玲奈)は、病を機に女優を辞め、東京から生まれ故郷のある九州に移住しようと福岡にやってきて、元カレの宗太郎(草川直弥)と再会する。

異母姉の響子と繋がりたいと、彼女をストーカーする菜穂子(岡崎紗絵)は、異母姉妹ということは隠し、響子と知り合いに。

施設に預けられていて、8年前から佐賀県嬉野で叔母の芙美子(黒沢あすか)と暮らす高校3年生の杏奈(倉島颯良)は、自分宛の手紙を勝手に読んだ叔母に不信感を募らせていた。「まずは話してみませんか?」という支援センターの広告を見て、身元もわからない菜穂子からの電話に、悩みを打ち明け始める。同じ頃、杏奈に思いを寄せる透(林裕太)は、杏奈とうまくいくよう、集落の長老・コガ爺(カトウシンスケ)に相談しに行っていた…

就職活動がうまくいかない中、 地元・嬉野に戻り、親友の保奈美(松林うらら)に就職の相談をする響子は、ひょんなことから自分と杏奈が異母姉妹ということを知ってしまう。菜穂子は、宗太郎に恋焦がれる絵里(川添野愛)等いつもの女子会メンバーとの旅先を嬉野に決め…

 

 

 

■映画『緑のざわめき』ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中

松井玲奈 岡崎紗絵 倉島颯良
草川直弥(ONE N’ ONLY) 川添野愛 松林うらら 林裕太
カトウシンスケ 黒沢あすか

監督・脚本:夏都愛未
プロデューサー:杉山晴香 / 江守徹
撮影:村松良 照明:加藤大輝 音楽:渡辺雄司
配給:S・D・P 製作:「緑のざわめき」製作委員会

2023年/日本/カラー/4:3/Stereo/115分 cSaga Saga Film Partners
文化庁「ARTS for the future!2」補助対象事業

公式サイト:https://midorinozawameki.com/
公式X(旧Twitter): https://twitter.com/midori_zawameki
公式Facebook:https://www.facebook.com/midorinozawameki/

 

 

■プロフィール
松井玲奈
1991年7月27日生まれ。愛知県出身。
2008年デビュー。主な出演作は、『よだかの片想い』(安川有果監督)、『幕が下りたら会いましょう』(前田聖来監督)、NHK連続テレビ小説「まんぷく」、「エール」、NHK大河ドラマ「どうする家康」、舞台『ミナト町純情オセロ ~月がとっても慕情篇~』(いのうえひでのり演出)等。8月スタートのテレビ東京系「やわ男とカタ子」ではヒロインを演じる。

公式プロフィール https://www.aplus-japan.com/talent/matsuirena
X(旧Twitter) https://twitter.com/renampme
Instagram https://www.instagram.com/renamatui27/

 

 

ヘアメイク 藤原玲子
スタイリスト 鼻先さや(DRAGONFRUIT)

 

 

 

インタビュー マンボウ北川
撮影・文 記者J

Photo Gallery フォトギャラリー

Octo Octo

RANKING

CURATOR

  • 記者J
    記者J
    地球上すべての美しい女性を求め東奔西走。究極のヲタを目指す傍らで記事を更新なうwww
  • ドッグ・ジュン
    ドッグ・ジュン
    かつては狂犬と呼ばれた豪腕アイドル記者。パパになっても某信越から取材の為上京するヲタ
  • 瞳とーこ
    瞳とーこ
    抜群のモデルスタイルに憧れるがいつの間にか紹介する方になってしまった悲しき乙女記者
  • マンボウ北川
    マンボウ北川
    美女・美少女&ドラマウォッチャー。TV出演・著書あり。年間取材件数は数百を超える古参ライター。
SIDEMENU
×
テキスト