2025.07.07 upload

SHARE:

石川瑠華、初監督作『冬の夢』で紡ぐ記憶と再生──迷い、祈り、誰かを想う“静かな衝動”をモノクロームで描く

全編モノクロ、ナラティブより感情。
誰かに見せるためではなく、自分を知るために撮ったという映画『冬の夢』。
それでも、スクリーンに宿ったのは、どこかの誰かの心をそっと照らすような静かな光だった。
“作品”とも呼びきれない未完成なものを、今の自分のすべてで形にした。
そんな監督・主演による、あまりにも個人的で、あまりにも切実な語りを、できるだけそのままの言葉で。

 

ーー映画は全部モノクロで。

自分の中では、カラーのイメージが最初からなかったんです。どうしてもモノクロでしか見えてこなくて。自分の技量的にも、最初に浮かんだそのまま、モノクロで撮りました。

ーーそれでもちゃんとカラリストっていう人がつくんですね。

はい。グレーディングをお願いしました。モノクロとはいえ、調整の幅があるんだなって。すごく印象が変わるんです。

ーー焦点が合ってるかどうか、曖昧なカットも印象的でした。意図的にやるのって大変そうです。

そこは意図的なところもありますし、編集の段階で意味を与えて使った部分もあって。正直、完璧な素材は撮れてないですし、知らないことばかりで……。でも、それでも使いたかったんですよね。

ーー正直、理解しきれなかった部分もあります。

自分でも“優しくない映画”だと思ってます。人に見せる前提で撮ってなくて。自分の中の整理のため、過去の自分を映像にして残しておきたくて、作った作品です。
最初は、知り合いに見せるくらいのつもりで。劇場でかけること自体、全然想定してませんでした。
映画祭にも出したけど全然通らなくて、“ああ、やっぱりこれは人に届かないんだ”と思っていたんですけど、長野相生座・ロキシーさんが「上映しませんか」って声をかけてくださって。
劇場で初めて流れた時、自分でも観て、すごく嬉しかったし、やっぱりまた作りたいって思いました。
ギルドさんにも拾っていただけて、本当にありがたいなと思っています。
でも、1700円の映画か?って言われたら、うーん……と思ってしまう。でも、上映されるならちゃんと向き合おうと。

右は共演の日比虹太郎

 

ーー最初は“映画を作りたい”から始まったんですか? それとも“この内容を作りたい”が先?

どっちもあるけど、強いのは後者ですね。
役者って、監督が作りたい世界に身を投じる仕事だと思ってて、でも自分の中でも「こういうのを描きたい」っていうのが浮かぶようになってきたんですよね。それがすごく邪魔だった。
役者として作品に関わるとき、もっと真っすぐその世界に向き合いたくて、そのためには自分の中の“描きたいもの”を一度形にしなきゃって思って。

ーーそれが今回の作品になった。

そうですね。でもなかなか動き出せなくて。お金も時間も人も必要だし。
でも、その冬に近しい人が突然亡くなってしまって――。その人は「生きたかった」のに生きられなかった。
それなのに、自分は“やりたいこと”をやらないまま、なんで生きてるんだろうって思って。
「あ、サボってただけだ」と気づいて、人を集め始めました。
挑戦してる人にお願いしたくて、写真家の方に撮影をお願いして、役者も、若い子がいいなって思って人脈をたどって。
声を聞いた瞬間、「あ、この人だ」ってなりました。

ーー実際に会ったら映画の中とは印象が違って。

全然違いますね。やっぱり、人は2年経つと変わるんだなって思います。

ーー映像で印象に残ったのは、猫の餌みたいなシーンでした。

ビスケットを砕いて食べるところですね。あそこは、完全に自分の“やりたかったこと”のひとつでもあります。
なんというか……エゴ、ですよね。

ーー普段は“朗読ライブ”はやってないんですよね?(取材日は朗読劇イベントが行われていました。)

はい。基本は映画の上映だけですね。
でも、自分がその当時に書いていたテキストだったり、今では書き直せなくなってしまったような、存在だけしてる文章があって。
一方で、日比虹太郎くん(本映画出演者)が「歌をやりたい」って言ってて。
まだ自分で曲を作ってる途中段階の人なんですけど、じゃあ一緒に何かやろうか、っていう流れになって。
今回の“歌と朗読”は、そうやって生まれた企画です。
でも……やっぱり毎日やるのは、けっこう大変で(汗)。
演出家がいるわけでもなく、すべて自分たちでやってるので。

ーー上映にこの朗読パートを足すことで、作品としての完結性が補強されるのかな、という気もしました。

そうですね。もともとの映画だけだと、けっこう“丸投げ”感があるんですよね。
でも、今回の朗読ライブで日比虹太郎くんが歌ってくれてる『私は大丈夫が好き』という曲が、すごくあたたかくて。
あの曲が包み込んでくれる感じがして。
年下なんですけど、あの曲がこの映画に必要だと感じて、「歌ってくれない?」ってお願いしました。
観てくれた人が、すっと入り込める余白になるような気がしてます。

ーー『猿楽町で、会いましょう』との同時上映には何か意図が?(過去に石川瑠華が主演した映画 https://x.com/colorless_movie)

わたしはその提案をしていただいて、同時上映する意味はあるのではないかと思ったのでこの2本を上映していただくことになりました。
とてもアンバランスというか、余計自分でも“自分”がよく分からなくなるというか(笑)。
『猿楽町で会いましょう』という映画を猿楽町という場所で上映することはとても意味があることだと思うのですが、正直『冬の夢』は場所というよりもシアターギルドさんの上映環境がとても合っている気がします。とても内省的な映画でもあるので、ヘッドホンで聴くことで自分1人きりになれるというか。
この2つの作品は、撮られた時期は違いますが自分との距離が近い作品だと思います。
観てくださる方々に、自由に受け取っていただけたら嬉しいです。

ーーあらためて、“この映画って何なのか”言葉にできますか?

うーん……予告編もないし、あらすじに起承転結があるわけでもない、“存在してしまった”映画だと思っています。
本当に反省してます。もっとちゃんと説明できるものにしておくべきだったなって。
でも、この作品を作ってみて、監督って本当にすごいなって思いました。
人を演出するって、ものすごく大変なことだと体感しました。

ーー映画の中で描いていたのは、20代前半の“苦しかった自分”なんですね。

はい。とにかく息苦しくて、出口が見えなくて、ひとりになるしかなかった時期のことです。
今の自分と完全に地続きではないかもしれないけど、あの時の自分がこの映画の核にあります。
世代を限定できるものではないけど、たとえば若い子とか、いま悩んでいる最中にいる人がふらっと観にきて、
何かしらの“道しるべ”になるような作品になっていたら、うれしいです。

ーー今後はどんな映画を作りたい?

やっぱりもう1本、作りたいとは思っています。
でも、長編は作れません。力がないっていうのが自分でもよくわかるので。
だから短編です。次はちゃんと、“作品”って胸を張って言えるようなものを目指したいです。

ーー最後のキャッチボールのシーン、あれは同じ人物ですか?

いえ、違います。
あのシーンは「あったかもしれない未来」なんですよね。
あんなふうに快活に笑いあって、キャッチボールしてる姿が、もしかしたらどこかに存在していたかもしれないっていう、
ひとつの“願い”みたいなイメージです。
iPhoneで誰かが撮ってる描写があるんですけど、
「誰かが見てくれたから、存在したことになる」っていう感覚も込めています。
見られなかったら、存在しなかったことになる。
そういう“目撃”への祈りみたいなものが、あのシーンにはあると思ってます。

ーーこの作品を1文字ないし、ギリ2文字で表すなら?

『純心』です。
これは“誰かを救えなかった話”でもあるんです。
もっと上手に差し伸べられていれば、この女の子はもう少し生きやすかったかもしれない。でも、若さゆえにできなかった。
その不完全さ、残酷さのなかに、でも確かに“純真さ”があると思った。
それを、撮りたかったのかもしれません。

ーーロングインタビューありがとうございました!

 

『冬の夢』
出演|石川瑠華 日比虹太郎

監督・企画・編集|石川瑠華

撮影|向後真孝 衣装デザイン|大場千夏 録音|寒川聖美
音楽|Takuya Sugiyama カラリスト|潮杏二

協力|中山求一郎 鈴木拓真 小牧桜

東京・シアターギルド代官山(https://theaterguild.co/)にて7月10日まで公開予定!

 

☆石川瑠華
公式プロフィール https://www.sma.co.jp/s/sma/artist/561#/news/0
X https://x.com/ishikawaruka322
Instagram https://www.instagram.com/___rukaishikawa/

 

 

インタビュー マンボウ北川
撮影・文 本間丞

アバター画像

TrenVe

女優、モデル、歌手、アイドルなどの最新情報を定期的に配信。メディアで輝く”女神”を、各記者の独自の視点からご紹介します。

YOUTUBE CHANNEL