2025.09.25 upload
葵うたのが語る『僕の中に咲く花火』——オーディションから現場の記憶、そして日常の素顔まで
映画『僕の中に咲く花火』で水石朱里(以下、朱里)を演じたのは、現在大ブレイク中の女優・葵うたの。
オーディションを勝ち抜いてつかんだその役柄は、静けさの中に確かな熱を秘め、観る人の心にじんわりと残ります。初めて脚本を手にしたときの驚きや、現場で実際に体験した忘れられないエピソード、そして夏の川辺での無邪気な笑顔や、陶芸に没頭する日常の素顔まで——。
彼女が語る言葉は肩肘張らずに自然体なのに、どこか深い余韻を運んできます。飾らない“葵うたの”という存在の魅力を、このインタビューから感じ取ってもらえたら嬉しいです。
ーーこの役はどういう流れで決まったんでしょうか?
オーディションでした。当時、朱里という役をやらせて頂きたいということでエントリーさせて頂きました。オーディション自体は3回ぐらいありまして、台本を頂いて最後まで読ませて頂いたのは最後のときです。
ーーその役が確定した時の感想としてはどんな感じでしたか?
とにかく嬉しかったです。やっぱり自分が出演したい作品とか役っていうものを逃してきた経験もたくさんありますし、受かった時っていうのは、「この役を私しか演じられないんだ!」と独占できることがすごく嬉しかったです。
ーー色々ご出演されていて、今までもオーディションは数多く経験されているんですか?
経験してきてます。昔はオーディションで気に入ってもらおうと気負いしていたんですけど、最近は割とリラックスしてというか、緊張感を持ちつつも取り繕うことなく挑めるようになりました。
ーーオーディションのあとの手応えはどうでしたか?
帰り道に「ダメだったな、あれは違ったな」と思う時もあります。でもそういう時に限って受かってたり、自信がある時ほど落ちてたりとかするのですが、何故でしょうか(苦笑)
ーーちなみにこの作品では、監督からこの役をこういう理由で選んだんだよっていうのは聞いたりしてますか?
上映が始まって、取材をさせて頂く中で聞きました。私と(安部)伊織くん(大倉稔 役)については、オーディションに入ってきた時から役のイメージに雰囲気が似ていたみたいです。それと、清水友翔監督自身、スナックなどの昭和の雰囲気が好きらしく、私がその好みに近かったのかなと思います。
ーー最初台本に目を通したとき、どんなことを考えましたか?
当時、私より年下の23歳の監督がこんなシリアスというか、静かだけどメラメラと燃える重厚感のある作品を撮ろうとしているってことに感動しました。私はあまり“死”について考えたことはなかったのですが、初めてそういうことを考えている人に出会ってすごく刺激を受けました。だからこそ、朱里として監督と主人公の稔を支えたいなっていう気持ちになりました。
ーーそんな監督の印象はどんな感じですか?
初めて会ったのは3年くらい前のオーディション会場で、プロデューサーとか年上の方たちと一緒に座っていてた中で監督は少年のようでした。静かな人だなというのが最初の印象だったんですけど、誰よりも映画について熱く話すし、どんな人ともコミュニケーションを取れるし、でもみんなでいるのに1人みたいな雰囲気を持っていたり、謎めいた存在でした。
今はすごい仲良しです。2作目の映画も一緒に作らせて頂いているので、だんだん人となりがわかってきて、一緒にカラオケ行ったりスナック行ったり…。同世代で一緒に映画を撮って頑張っていこうという仲間が増えてすごく良い出会いでした。
ーー撮影現場でのエピソードは何かありますか?
私は途中から参加して、みんなより撮影日数も少なかったんですけど、特に印象に残っているのはトンネルのシーンですね。台風が撮影期間で2回ぐらい来ていて、雨を生かして撮ったシーンがすごく多いんですけど、トンネルのシーンに関しては、地元の方々が散水車を貸してくださって土台を組んだり手伝って下さったので、岐阜の方々とも一緒に作った現場だったなというのがすごく印象的です。美味しいコーヒーを入れてくれて温かかったです。
ーーちなみにトンネルといえば、あのシーン。最初から意識していたのか、それともトンネルという閉鎖空間からそういう気持ちになってしまったのか、どちら側で演じていたのでしょうか?
そのどちらかで言ったら、衝動でした。うまく言葉にできない関係性だと思うんです。男と女ではあるんだけど、兄弟でもないし、友達でもないし、好きな人でも恋人でも家族でもないっていう不思議な関係で…。トンネルのシーンは、“無言のまま2人が求め合う”っていう引力みたいなものは現場で起こったものでしたね。
ーーなるほど。この映画でのご自身の役の見どころと、映画全体の見どころを教えて下さい。
朱里の見どころは、映画の中で多くを語られない存在であって、結構ミステリアスな女性なんですね。カラッとしているけど、時折見せる影の部分というか、そういうものをちょっと想像しながら見て欲しいです。あと「地元にこんな姉ちゃんいたな」みたいな声もいただいたりしていて、見てくださる方の今までの出会いにちょっとでも触れられたらいいなと思います。
映画としての見どころは、こんなに静かな映画って、最近の私の個人的意見ですけど、減ってきている気がしていて、自分の居場所みたいなものを探している人に優しく寄り添える作品になってたらいいなと思います。私はこの映画を見て、「生きてればなんとかなる」っていう、辛いけどポジティブな気持ちを頂いたので、ぜひ映画館で楽しんでいただけたらなと思います。映画館は静かに自分だけの世界に入れる特権があると思うので、それを劇場で楽しんで頂けたらと!!
ーー映画の方はこのへんで。今年の夏はどんなことされましたか?
今年の夏は、川でバーベキューをしました。自分が住んでいる近くに綺麗な川があって、地元の小学生の男の子2人に絡まれて一緒に遊びました。「俺柔道やってるんだよ」とか言って投げられたりとかして(笑)。後半ボロボロで死ぬかと思いました。でも、すっごい楽しかったです。
ーーどうやら葵さんは一人時間が好きということなんですけど、最近はまっている一人時間の過ごし方があれば教えて下さい。
最近いっぱいあるんですけど。でも、陶芸にハマってます。最近山形に行って、上ノ畑焼という伝統的な山形の陶芸があるんですけど、それを体験してきました。
ーー自分で焼かれたのは出来上がって来たんですか?
まだ来てないので楽しみです。ろくろを使わないで自分の手で粘土を形成するのと、出来上がった器に藍色の絵の具で絵を描くっていうのをやったんですけど、これが結構難しくて。ろくろだと割と先生が支えてくれるのできれいにできるんですけど、手で作るのは助けてくれないんです。でもその分自由度が高くて達成感もあって、完成が楽しみです。
ーー本当のラストで、今後の目標みたいなものを教えていただきたいです。
あまり目標を決めないタイプです。行き当たりばったりなんですけど、でも、楽しもうと思います。
ーー意外と自分から動かなくてもイベントが来ちゃう感じですか?
そういうタイプです。だから予定立てたり事前に誘ったりしないので、声をかけて頂いた時に「よかったら行きます」っていう感じです(笑)
ーーありがとうございました。
☆予告
☆あらすじ
田園風景の豊かな岐阜県にある田舎町。小学校の頃に母親を亡くしている大倉稔は、家にほとんど帰ってこない父親と不登校で引きこもっている妹に頭を悩ませていた。10年前に亡くなった母を未だ忘れられない稔は、死者と交流ができる、と話題の霊媒師を訪ねる。そこで「ドラッグ」が臨死体験に似た働きをすることを知った稔は、死後の世界への好奇心から非行の道を走り始める。そんな折、東京から帰省してきたという年上の女性、朱里と出会う。どこか母親のような優しさを併せ持つ朱里は、稔の心の寂しさを埋めてくれる存在になっていく。しかし、稔の前で起こった不幸な事件が稔の心がこれ以上ないほどに引き裂かれてしまう。死への好奇心が恐怖に変わってしまったことで、彼の胸の内に潜んでいた狂気が姿を現し始めるのだった…。
☆映画『僕の中に咲く花火』
出演:安部伊織、葵うたの、⾓⼼菜、渡辺哲、加藤雅也 ほか
製作︓ファイアワークスLLP
制作︓フォトシンス
プロデューサー︓落合賢
脚本・監督︓清⽔友翔
配給:彩プロ PG-12
2025/⽇本/ビスタ/93 分
公式サイト https://bokuhana.ayapro.ne.jp/
X https://x.com/bokuhanamovie
Instagram https://www.instagram.com/bokuhanamovie/
☆葵うたの
1999年7月4日、埼玉県生まれ。ドラマ「ガールガンレディ」(21/MBS・TBS系)にて初のドラマレギュラー出演を果たし、その後映画「レッドブリッジ」(22)、ドラマ「パリピ孔明」(23/フジテレビ)、ドラマ「さっちゃん、僕は。」(24/TBS)などにもレギュラー出演。さらに数多くの広告にも出演し、今年公開された映画『タイムマシンガール』では主演を務めるなど、今後活躍が期待される。
公式プロフィール https://asobisystem.com/talent/aoiutano/
X https://x.com/iam_utano
Instagram https://www.instagram.com/utano_aoi_/
インタビュー・撮影・文 本間丞
